お外訓練1日目
空には分厚い雲が青い空を隠している。雲はこんなにも忙しのないものだっただろうか。ただの数分、信号を待つ間にも風に流れる様は、水蒸気の群れであるということを思い出す。
あたりが明るくなり、太陽の光に川上は顔を顰める。
音を聞いたのか、視界の端で誰かが動いたのが見えたのか、川上は気にすることもなく横断歩道を渡る1人に紛れていた。
目の前から迫ってくる青年の視線はスマホにあった。というのに、まるでこちらをみているかのようにぶつかる危うさもなく川上を避けてすれ違う。
歩道の縞模様と川上の歩幅は当然合わない。川上の白い靴はくすんでいるが、致命的な傷や汚れはない。不器用に偏った靴紐を踏んづけると、あっという間に解けてしまい、カラカラと紐先のプラスチックが音を鳴らしているのに川上は気がついた。
川上にはその音は、心臓を逆撫で、苛立ちが背骨を確実に這うような音に思え、意識せずともその歩みがぎこちなく早くなる。
信号機の青が明滅し、赤になる頃川上は歩道のすぐ脇にしゃがみ込み靴紐を結び直す。
「だから外は嫌なんだ」
外であるというのに、外に合わせるだけの余裕を川上は持ち合わせていなかった。
彼のそばを通り過ぎた誰かが、一瞬川上の方を見るも、すぐにその興味は手元のスマホへと移った。
川上の手元は震えている。あの左右に偏ったリボンというには不恰好な結さえ、彼が精一杯に結び上げたものだった。
人の目があるところで、うずくまって、結び直す姿だなんて、馬鹿にされるに決まっている。
川上はその考えに支配されていた。彼が痛いほどに感じていた視線は、あくまで太陽の熱線のみだった。だが、川上には他者から受ける、内臓を弄られえぐられるような不快感に見舞われるものだった。
「大丈夫ですか」
川上の耳にはその言葉が攻撃の合図に思えた。
だから、彼は叫びながら逃げたのだった。