緊急停止、確率非公開
アスファルトもとろける程の猛暑。つい先日までの涼しさは、まるで過去のログに載っているほどに遠くの話だと、山田は判断していた。電車という選択は、直射日光を避けるという一点においては正当である。だが、問題は電車が満員であるということだ。検知したくもない他の温もりがつんとした嫌な匂いと共に押し寄せてくる。
顔を顰めるだけの余剰エネルギーもない山田は、この不毛な選択をどう回避すべきだったかと振り返っている。
彼の装いはカジュアルという意味を置き去りにした、量産型の装いだ。オフィス街によく合う設計らしい。
吊り革と、顔も知らない誰かの体に体重を預けざるを得なくなっている。
うっかり下げた左手は、荷物で埋まっている。耳から流れてくる音楽が、遠い異国の言語に変わったことに気がつくと、次の駅のアナウンスが無機質に流れる。
ひび割れた車掌の声は、個性がまるでない。昨日も今日も、そして明日も変わることはないのである。なら一層のこと、聞きやすさを考慮してくれれば良いものを、あえて無駄を残すのが最近の方針である。
かろうじて支えていた足ではどうにもならない衝撃。
山田の思考にノイズが走った。
ランダムで生成された、電車の緊急停止である。
動物が横切った想定で、15分ほど停止するそうだ。
「毎度思うけど、この無駄なシステムなんだよ。誰が得すんの」
「生命体がいたころはよくあったんだと。その再現だってさ」
「知っているけどさ、再現する必要もないだろ。もういないんだから」
新世代はそう愚痴をこぼしていた。