アンインストール
彼女からの連絡が途絶えてから、1年と3ヶ月が経とうとしていた。
優しい栗毛が、ぴょんと跳ねているのが愛らしいのに、恥ずかしいといつも必死に直していたのをよく覚えている。
SNSアプリのメッセージは、既読がつかないままだ。
遡るとネコが布団をすっ飛ばして、床で伸びているスタンプが目に入る。
なんのキャラクターだったのか、そんなことさえも忘れていたことを思い出した。
潮風が肌にまとわりつく。顔にべっとりと、へばりついているような気はするけど。
そう、気がするだけだった。私の指は、ガサついた頬を撫でているから。
橙赤色と水色と、麦の黄色と、紙が燃える端の黒。
私の目に映っているのは、空の色だ。
手元に握られているのは、残り数分で画面が消えるだろうスマートフォン。
開いていたはずのSNSアプリは勝手に閉じて、アプリのアンインストールが始まる。
——縺ゅ↑縺を初期化しています。 80%
真っ青な画面に、白文字で映し出される。
太さが整いすぎて、絶妙にダサいフォントで、さまざまなファイル名が瞬きする間に写し出される。知っている文字列のはずなのに、こうも消えてしまうと、何が消し終わったのかわからない。
次の瞬間、手元からスマートフォンが姿を消していた。
親指の付け根に、何かが引っ掻いたような傷ができていて白い線を作っている。
嗄れた鳥の鳴き声。彼も水が足りていないのだろう。壊れたラジオの断末魔のような音をしていたから。
生臭い香りが鼻を捻じ曲げて、視界が影で覆われる。
影の中で唯一見えたのは、鋭い鎌の刃先だった。
何かがえぐれる音がして、身体がふっと軽くなる。
生臭さも、ベトつく風も、忘れかけていた汚い空も。
全てが白に飲み込まれる。
たった一点のみを残して。
その点は軌跡を残し、こちらへと寄ってきた。
点ではなく、ローブを纏った何かだったなんて、知ってもどうにもならない。
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ローブの中からチラと、癖のある栗毛が確かに見えた。