没エンディング
とある技師が、落ち着きのない様子で町中を走っている。
辺りをキョロキョロと見渡し「どこだ」と小さく呟いた。
その焦りようはあまりにもひどかった。
普段手放すことのなかった帽子を忘れ、額から顔の端まで続いている裂傷が表に晒されてしまっている。
周囲の目を引いているのはその裂傷か、老人がひどく取り乱した様子で走っているからか。
彼は周囲の視線の理由どころか、空から大量に降る雨粒さえ気に留めていなかった。
彼の愛弟子が姿をくらましたからである。
たった3日。周りは彼にそういうが、聞かなかった。
「あの子は不器用だが、生真面目な子だ」
技師は弟子の部屋へと辿り着く。
机に出したままの魔法書に、中途半端なまま放置された魔道具。
仕舞われていないグラスには、水の垢がついている。
生活の跡はありはするが、愛弟子の姿だけが足りなかった。
……若さゆえの反抗だろうか。
技師は頭を悩ませた。
弟子はまだ、半人前な上、大人でもないのだから。と。
弟子の部屋を後にし、彼のよく通っていた魔道具の店を訪れる。
「いらっしゃいませ」
鈴の音と共に店主が魔法使いに声をかけた。
店主は白髪の線の細い男性で、穏やかな笑みを浮かべている。
並ぶ魔道具はどれもこれも、一級品。概ね普段使いできるような代物は、何一つ並んでいない。
だが、この店主はやってきた技師がこの場にいることを許した。金を持っているとは到底思えない見てくれをしていたにもかかわらず。
技師は、愛弟子がここに何度も足を運んだ理由を否が応でも理解し始める。
技師は愛弟子がここへ来たかと、店主に尋ねる。
店主の返事は、妙に遅かった。
だが、技師に返ってきたのは。
「申し訳ございません」
ただの、謝罪だった。
技師はその店を後にした。
彼の後ろ姿を見守った店主は、扉の手すりを布切れで拭い。
笑みを解いた。
タイトル:
沈黙(没)
温度差のあるあとがきがあります! ご注意を!
このエンディングを目指して書いていたのですが、途中から「どう頑張ってもここに辿り着かないな」とこねくり回しているうちに完全に没になってしまった現在執筆中の『沈黙』の最終話です。裂傷晒してもなお弟子を探すために走ってる技師が個人的に大好きだったんです。そんな彼の触れた手すりを拭った店主が大好きだったんです。