かゆー
それは、黒くて大きな毛虫だった。
両手に持つくらいに大きくて、葉っぱの上にだらしなく横たわっていた。
それが、ぼとんと地面に落ちる前に、僕は茶畑の中を走り出した。
父さんを呼んで、もう一度同じ場所を見にいったんだ。
そしたら、いなくなっていた。
大人になった今はわかる。ありゃ、ただの見間違いだ。
葉っぱの上に収まってた時点で大きくないしな。
反抗期のプルタブに苦戦することたぶん数秒、ようやく炭酸が逃げていく音がした。
細く酒をグラスに注いで、細やかな泡が内側をなぞっていく。
すっかり気に入ってしまった檸檬の味。
うまいっちゃ美味いが、一番好きかと聞かれたら……わからん。
視界の端に、黒い影が蠢いた。
何だと目をやると、ちっさな埃がなぜか転がってきてる。
反射的に手で払う。
その埃は生きているように手の甲に登ってきた。
思ったより重力あるなこいつ。
そう左手でつまみ上げると、右手にどうしようもない痒みが走る。
あんまりに痒すぎたから、手を噛んで紛らわせようとするけど。
痒くて痒くて仕方ない。
何でも口に入れるこどもみたいに、何度も噛んだ。
歯形がついたくらいじゃ痒みは消えない。
皮膚の下に縫い針でも入れたいくらいだ。
ゴミ箱に埃を投げ捨てると、今度はつまんだ指が痒くなった。
引っ掻こうにも、短すぎる爪じゃ満足感が足りないんだ。
だから僕は、缶からプルタブを無理やり剥がした。