◀︎ 目次へ戻る

魔王討伐!

「魔王城って確か、空にあるんだよな?」
「そうです! あの辺に浮いてるのが魔王城です」

 ユリが指さした先には、何かが浮いていた。日本のお城のシルエット。屋根には金色の棘が2つ。安っぽい和の雰囲気を醸し出している。

「和風だぁ」
「王様の謁見時に雑に創ったからですよ!」
「あの時か……」

 王様との謁見を思い出す。
 まて、あの一瞬で魔王引っ越ししたのか?

「必要だと思ったら勝手に生えてくることもあるので、お気をつけを!」
「気をつけろっていっても、どうすればいいんだ?」
「心を無にするのです! こうやって目を閉じて呼吸に意識を集中させて……」

 彼女に合わせ、目を閉じ、呼吸に意識を集中させて……。

 ……………………

「寝ちゃダメです!」

 ユリに肩をゆすられ、目が覚めた。

「言い出したのそっちだろ」
「定時出社はいいんですか⁈」

 そうだ、定時が迫ってたんだ。
 流石に夢で魔王倒せなくて遅刻しましたなんて、言い訳にも。

 と言うか、別に自然に目覚めるくない?

「それじゃあ張り切って魔王討伐に行きましょう!」

 ユリは再び拳を突き上げる。
 俺もオズオズと拳を築き上げた。

「オー! って、どうやって行けばいいんだ?」

 そう足を踏み出した瞬間、視界ががらりとかわった。比喩ではない。
 本当にもう少し先に、見上げるほどに大きな城が、堂々と聳え立っていたのだ。

 禍々しい雰囲気もなければ、毒の沼とか、枯れた土地とかもない。
 空だってとんでもなく青い。

 城とそこに続く少しの道だけがあるだけだった。

「瞬間移動ですね!」

 呆気に取られて、何もコメントが出てこなかった。
 せめて効果音とか、それっぽい光とか放って欲しかった。
 心の中で文句言いながら、城の中を登っていく。

「けっけっけ! 人間がきたぞ! イキョー様の元へはかせん!」
「よくいるゴブリン的なキャラだ!」

 肌が緑で、厚手の布巻きを腰に巻いていて、トゲトゲしたとんでも構造な鎧を身に纏っている。

「そうですね! よくいるゴブリン的なキャラなら、ふにゃ剣で何とかなります!」

 背中から取り出そうとするも、構造的な問題で上手く引き抜けなかった。
 一度ベルトを外し腰元に携え直し、ゆっくりと引き抜く。
 かっこわる……。
 恥ずかしさに、顔に熱が集まるのがわかる。
 

「う、うわぁ!! そ、そのつ……」

 ゴブリン的なキャラ達はバタバタと倒れていく。
 
「くそ……まさか伝説のふにゃふにゃ剣があるだなんて」
「あの剣は俺のお父様の、お爺様の、兄弟の、奥さんの子供の友達が、カザーンのマグマに落としたはずでは」
「そこまで行くと他人なのでは?」
「そしてそのお友達が俺だ!」
「どうも……」

 敵キャラ達はすぅと灰になった。

 ……えぇ。

 俺はフニャ剣を見つめる。

「すごいです! 流石創造主! 敵を丸々撃破です!」

 撃破……したのだろうか。
 当然、爽快感はなかった。

※

 思ってたんと違う感は連続する。
 魔王の部下達は一瞬で倒せちゃうし、城は和風。そのチグハグ感は物珍しさはあるけどさ。
 やっぱり、中世ヨーロッパ風な城で、禍々しい雰囲気で、ちょっとビビりながら探索したいよな。
 ……多分、今の雑な想像でこの世界のどっかに、それっぽいとこ出来たのだろう。が、気にしないでおこう。

 城のいちばん高い所へと登ると、大柄のエネミーが外を眺めていた。

「来たか勇者よ、定時出社は認めんぞ」

 そういや……そうだった。というか、なんで定時出社が悪いみたいになってんだよ。
 心の中で突っ込んでいると、魔王がゆっくりと振り向いた。
 黒いマントに大きな牛のような角、濃い灰色の肌に、真っ赤な瞳。
 口元には立派な髭が生えており、背丈は3mくらいありそうだ。

「セーブするのなら、今のうちだ」
「メタいな」
「雑に創るからですよ」
「というか、セーブ出来るの?」
「もちろん!」

 彼女の目の前にホログラムっぽいものが現れた。
 黒字に白いドット文字で、もちもの、どうぐ、セーブ、設定……とメニュー画面が現れ、カーソルがセーブを選択した。

「出来ましたよー!」
「あ、ああ。ありがとう」

 一体このセーブがどんな風に役に立つのか分からないが、これできっと安心だ。
 自分でも、何言ってるのか分からない。
 ふにゃ剣を取り出し、とりあえず構える。

「おらぁ! 覚悟しろ! 魔王!」

 俺はふにゃ剣を魔王に振り下ろす。
 すると剣はピタリと止まった。

「は?」
「ふはははははは! ふにゃふにゃ剣など! とうの昔に克服したわ!」
「貴方いまさっき生まれたばっかですよね⁈ てか、なんで魔王だけやけに設定作られてるの?」

 デザインのディテールの細さがほかとは段違いだ。
 村人を思い出してみろ、よく見かける死んだ魚の目をしたモブ顔しかいなかった。
 それに対し魔王はなんだ。肌の色、角、衣装、更には声までちょっと作り込まれている感がある。
 それに、むっちゃ某声優のシアンさんの声そっくりだ! 

「ハジメ君のむかーし昔に創った最強の敵とかから引っ張り出してきたのかもですね? 」
「なるほど⁈」

 一度後ろに下がり、間合いを取る。するとふにゃ剣に謎のビームが当てられ、灰となって消えていった。

「ふにゃ剣!!」

 俺の悲鳴と魔王の高笑いがその場を支配する。
 大ピンチだ。カバンの中は回復薬しかない。
 魔王のビンタが俺に炸裂した。俺は凄まじい勢いで吹っ飛ばされ壁に激突した。
 とんでもなく痛いし、呼吸が上手くできない。

「ハジメ君!」

 ユリはすぐに駆け寄ってきた。
 俺のカバンから回復薬を取り出し、口にねじ込んできた。
 だが、蓋が空いていないので全く飲めない。

 魔王は緩慢な足取りでこちらへと向かってくる。

「このイキョーの一撃で、海の藻屑となれ! 女!」
「なぜ海⁈」

 咄嗟に出たのがツッコミだなんて呆れる。
 最強の盾とか創ろう!
 そう手をコネコネさせれば眩い光を放ち、盾が現れた。
 だが魔王と彼女の間に割り込むには遅すぎた。

 魔王の振り上げた腕はピタリと止まった。
 太く逞しい腕を白く細い腕が掴んでいる。

「ハジメ君に……酷いことするなんて……!」

 ユリの声は震えていた。
 恐怖に、では無い。

 怒りにだ。

 凄まじい衝撃音、魔王が地面に叩きつけられた。
 あまりのことに俺は言葉を失った。
 えっ、彼女が、片腕で、魔王を?
 俺が困惑するさなか、彼女の周りになにか凄まじいエネルギーが集まってきた。
 魔王が起き上がると彼の足元に魔法陣が張り巡らされてた。

「私! 魔王さん大嫌いです!」

 彼女の一言と共に地面から光の柱が立ち上る。

「な、なんだ! こ、これは!」

 魔王の苦しそうな声が聞こえてきた。
 空気が揺れた。
 光は炎に包まれ、落雷が魔王を貫く。
 炎ごと氷漬けにされ、木っ端微塵に砕け、突如発生したブラックホールに吸い込まれ……。

 魔王は、消えた。

 唖然とした。情報量の多さに。
 ユリがくるりと振り返る。
 その瞳には光はなく、頬には一筋の涙が流れていた。

「大丈夫……?」

 俺の声にユリぱっちりと瞬きをし瞳に光が戻った。
 そして少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、そっぽを向いた。

「……倒しちゃいました」

 ユリがどういう感情なのか分からず言葉に迷った。

「うん、おめでとう」

 素直に思いついた言葉を口にする。

「ありがとうございます……」

 ユリははにかみながら言った。