魔王討伐!
「魔王城って確か、空にあるんだよな?」
「そうです! あの辺に浮いてるのが魔王城です」
ユリが指さした先には、何かが浮いていた。日本のお城のシルエット。屋根には金色の棘が2つ。安っぽい和の雰囲気を醸し出している。
「和風だぁ」
「王様の謁見時に雑に創ったからですよ!」
「あの時か……」
王様との謁見を思い出す。
まて、あの一瞬で魔王引っ越ししたのか?
「必要だと思ったら勝手に生えてくることもあるので、お気をつけを!」
「気をつけろっていっても、どうすればいいんだ?」
「心を無にするのです! こうやって目を閉じて呼吸に意識を集中させて……」
彼女に合わせ、目を閉じ、呼吸に意識を集中させて……。
……………………
「寝ちゃダメです!」
ユリに肩をゆすられ、目が覚めた。
「言い出したのそっちだろ」
「定時出社はいいんですか⁈」
そうだ、定時が迫ってたんだ。
流石に夢で魔王倒せなくて遅刻しましたなんて、言い訳にも。
と言うか、別に自然に目覚めるくない?
「それじゃあ張り切って魔王討伐に行きましょう!」
ユリは再び拳を突き上げる。
俺もオズオズと拳を築き上げた。
「オー! って、どうやって行けばいいんだ?」
そう足を踏み出した瞬間、視界ががらりとかわった。比喩ではない。
本当にもう少し先に、見上げるほどに大きな城が、堂々と聳え立っていたのだ。
禍々しい雰囲気もなければ、毒の沼とか、枯れた土地とかもない。
空だってとんでもなく青い。
城とそこに続く少しの道だけがあるだけだった。
「瞬間移動ですね!」
呆気に取られて、何もコメントが出てこなかった。
せめて効果音とか、それっぽい光とか放って欲しかった。
心の中で文句言いながら、城の中を登っていく。
「けっけっけ! 人間がきたぞ! イキョー様の元へはかせん!」
「よくいるゴブリン的なキャラだ!」
肌が緑で、厚手の布巻きを腰に巻いていて、トゲトゲしたとんでも構造な鎧を身に纏っている。
「そうですね! よくいるゴブリン的なキャラなら、ふにゃ剣で何とかなります!」
背中から取り出そうとするも、構造的な問題で上手く引き抜けなかった。
一度ベルトを外し腰元に携え直し、ゆっくりと引き抜く。
かっこわる……。
恥ずかしさに、顔に熱が集まるのがわかる。
「う、うわぁ!! そ、そのつ……」
ゴブリン的なキャラ達はバタバタと倒れていく。
「くそ……まさか伝説のふにゃふにゃ剣があるだなんて」
「あの剣は俺のお父様の、お爺様の、兄弟の、奥さんの子供の友達が、カザーンのマグマに落としたはずでは」
「そこまで行くと他人なのでは?」
「そしてそのお友達が俺だ!」
「どうも……」
敵キャラ達はすぅと灰になった。
……えぇ。
俺はフニャ剣を見つめる。
「すごいです! 流石創造主! 敵を丸々撃破です!」
撃破……したのだろうか。
当然、爽快感はなかった。
※
思ってたんと違う感は連続する。
魔王の部下達は一瞬で倒せちゃうし、城は和風。そのチグハグ感は物珍しさはあるけどさ。
やっぱり、中世ヨーロッパ風な城で、禍々しい雰囲気で、ちょっとビビりながら探索したいよな。
……多分、今の雑な想像でこの世界のどっかに、それっぽいとこ出来たのだろう。が、気にしないでおこう。
城のいちばん高い所へと登ると、大柄のエネミーが外を眺めていた。
「来たか勇者よ、定時出社は認めんぞ」
そういや……そうだった。というか、なんで定時出社が悪いみたいになってんだよ。
心の中で突っ込んでいると、魔王がゆっくりと振り向いた。
黒いマントに大きな牛のような角、濃い灰色の肌に、真っ赤な瞳。
口元には立派な髭が生えており、背丈は3mくらいありそうだ。
「セーブするのなら、今のうちだ」
「メタいな」
「雑に創るからですよ」
「というか、セーブ出来るの?」
「もちろん!」
彼女の目の前にホログラムっぽいものが現れた。
黒字に白いドット文字で、もちもの、どうぐ、セーブ、設定……とメニュー画面が現れ、カーソルがセーブを選択した。
「出来ましたよー!」
「あ、ああ。ありがとう」
一体このセーブがどんな風に役に立つのか分からないが、これできっと安心だ。
自分でも、何言ってるのか分からない。
ふにゃ剣を取り出し、とりあえず構える。
「おらぁ! 覚悟しろ! 魔王!」
俺はふにゃ剣を魔王に振り下ろす。
すると剣はピタリと止まった。
「は?」
「ふはははははは! ふにゃふにゃ剣など! とうの昔に克服したわ!」
「貴方いまさっき生まれたばっかですよね⁈ てか、なんで魔王だけやけに設定作られてるの?」
デザインのディテールの細さがほかとは段違いだ。
村人を思い出してみろ、よく見かける死んだ魚の目をしたモブ顔しかいなかった。
それに対し魔王はなんだ。肌の色、角、衣装、更には声までちょっと作り込まれている感がある。
それに、むっちゃ某声優のシアンさんの声そっくりだ!
「ハジメ君のむかーし昔に創った最強の敵とかから引っ張り出してきたのかもですね? 」
「なるほど⁈」
一度後ろに下がり、間合いを取る。するとふにゃ剣に謎のビームが当てられ、灰となって消えていった。
「ふにゃ剣!!」
俺の悲鳴と魔王の高笑いがその場を支配する。
大ピンチだ。カバンの中は回復薬しかない。
魔王のビンタが俺に炸裂した。俺は凄まじい勢いで吹っ飛ばされ壁に激突した。
とんでもなく痛いし、呼吸が上手くできない。
「ハジメ君!」
ユリはすぐに駆け寄ってきた。
俺のカバンから回復薬を取り出し、口にねじ込んできた。
だが、蓋が空いていないので全く飲めない。
魔王は緩慢な足取りでこちらへと向かってくる。
「このイキョーの一撃で、海の藻屑となれ! 女!」
「なぜ海⁈」
咄嗟に出たのがツッコミだなんて呆れる。
最強の盾とか創ろう!
そう手をコネコネさせれば眩い光を放ち、盾が現れた。
だが魔王と彼女の間に割り込むには遅すぎた。
魔王の振り上げた腕はピタリと止まった。
太く逞しい腕を白く細い腕が掴んでいる。
「ハジメ君に……酷いことするなんて……!」
ユリの声は震えていた。
恐怖に、では無い。
怒りにだ。
凄まじい衝撃音、魔王が地面に叩きつけられた。
あまりのことに俺は言葉を失った。
えっ、彼女が、片腕で、魔王を?
俺が困惑するさなか、彼女の周りになにか凄まじいエネルギーが集まってきた。
魔王が起き上がると彼の足元に魔法陣が張り巡らされてた。
「私! 魔王さん大嫌いです!」
彼女の一言と共に地面から光の柱が立ち上る。
「な、なんだ! こ、これは!」
魔王の苦しそうな声が聞こえてきた。
空気が揺れた。
光は炎に包まれ、落雷が魔王を貫く。
炎ごと氷漬けにされ、木っ端微塵に砕け、突如発生したブラックホールに吸い込まれ……。
魔王は、消えた。
唖然とした。情報量の多さに。
ユリがくるりと振り返る。
その瞳には光はなく、頬には一筋の涙が流れていた。
「大丈夫……?」
俺の声にユリぱっちりと瞬きをし瞳に光が戻った。
そして少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「……倒しちゃいました」
ユリがどういう感情なのか分からず言葉に迷った。
「うん、おめでとう」
素直に思いついた言葉を口にする。
「ありがとうございます……」
ユリははにかみながら言った。