おお、勇者よ!
お城の中は奥の玉座までレッドカーペットが続いているだけの空間だった。
そして玉座の奥に、やたらめったら存在感を放つ宝箱が見える。
魔王倒したら重要なアイテムがゲットできるんだろう。
……うん、出来としては最低限がすぎる。
日本風の城ならもうちょいましに創れる気がする、とぼんやり思った。
王様のもとへ向かおうと1歩踏み出したとき、俺は自分の格好が不安になった。
何しろスエットだ。
「この格好で大丈夫かな」
「大丈夫ですよ! 着てますもん!」
全くもってフォローになっていないが、お金も持っていない。
店に行っても何も買えないだろう。
金ぐらい無限とかにしてくれても……。
いや、待てよ。
「鎧も、創造すれば良いのか!」
名案じゃないかとユリを見るも、ものすっごく微妙な顔をしていた。
「……やめた方がいいと、思います」
「え、なんで」
彼女はすごく、申し訳なさそうに口を開く。
「創造主様、ファッションセンス。壊滅的ですよね……?」
その一言に何も返せなかった。
無音が続く中、何かが顔に覆い被さる。
「なに⁈」
すぐに引き剥がすと、それは銀色の全身タイツだった。
「ほら……」
ユリは本当に可哀想なものを見るような目でこっちを見てきた。
「いや、中途半端に……創造したから」
ユリは何も言わずに、無理やり口端を上げる。
俺はそれを丸めて城の端にぶん投げ、王様の元へと向かった。
玉座に腰掛ける王様は、赤いマントを羽織っており、襟元には白いふさふさがついている。
茶色い立派なお髭に、優しそうなお顔。頭に乗っている王冠も、赤い布と金で作られている。
「おぉ! 勇者よ! よくぞ参った!」
王様は両手を天にかざす。
「魔王サ・イキョーが世界征服を目論んでおる! その野望を阻止するのだ!」
名前の雑さはもう突っ込まない。王様から懐から小さな布袋を取り出し、俺に手渡した。
「軍資金! 1000へけだ! 大切に使うが良い!」
「王様! ありがとうございます!」
「へけ……何故、へけ」
俺達はお城を後にした。
道具屋の看板を見つけ、足を踏み入れる。「へいらっしゃい!」という威勢の良い声が聞こえる。
「回復アイテムだけでいいかな」
「装備はいいんですか?」
彼女の言葉に、店に並んでいる装備に目をやった。
鉄板を黒い服に貼り付けたみたいな装備が飾られている。そしてその横にはスーツがあり、値段は5万へけと手持ちでは足りない。
値札をよく見ると、防御力+10と書いてある。
……渋くね。物価高?
「動きずらそうだし……」
「それも、そうですね!気慣れた服が1番です!」
結局、1番効果の高い回復薬を9本購入した。
HPが100回復するらしい。
ペットボトルの中に水色の液体が入っており、内容量は200ml程だ。
買った後に思った。
無茶苦茶、がさばる。
「どうやって持てばいいんだこれ」
「創造主様! 無限に入る袋を創っちゃいましょう」
「そうだな」
無限に入る、カバン。両手塞がらない。
少しだけ肩が重くなる。
気がつけば俺は、いつも使っている斜めがけのボディバッグを身につけていた。
異世界感については、もう目を瞑ろう。
チャックを開けて中へと回復薬を入れる。重くなることもなければ、満杯になることも無い。
中を覗いてみると、宇宙のような空間が広がっていた。
その宇宙を漂う回復薬がとんでもなく場違いだった。
「誰か開発してくれないかな」
回復薬を詰め込み、チャックを閉める。
「創ったじゃないですか」
「いや、リアルでの話」
彼女は少しだけ寂しそうな顔をした。
「ごめん」
水を刺すような発言だったと、素直に謝るも、その表情は晴れることはなかった。
こちらをじっと見つめるその瞳はとても綺麗なのだが、その奥深くに薄暗い何かが潜んでいる気がした。
少しして、彼女は人懐っこい笑顔を浮かべる。
「……人生、楽しんだもん勝ちです!」
「人生って……まぁ、そうかもな」
急に話が飛ぶし、人生とか言い出すし。
なんのこっちゃとは思うけど、ユリは楽しそうだしいっか。
ちょっとした不安を抱えつつ、俺は道具屋を後にする。