りはじま!
街並みは賑わっていた。地面は正方形の何かで舗装されている。聞き覚えのある音楽も流れている。しかも、サビだけ。
建物は真四角で窓が4つ均等に設置されたものしかなく、違いと言えば壁の色くらいなものだ。モブな顔の男に、モブな赤髪の男に、モブな青髪の……。
「みんな顔同じなんだが」
「はい! これが今の創造主様の限界です!」
髪の色はそれぞれ異なるものの、髪型は全員同じショートカット。服装は何故かスーツ。ネクタイは髪と同じ色をしている。色以外の違いが一切ない。
「さてさて、どうします? ツボでもわりますか? タンス漁りますか?」
「なんで唐突にゲーム風なの」
彼女の頭の中にある異世界も、というか、あからさまに某有名ゲームに偏ってないか?
あれもある意味、異世界……。あれ、異世界ってなんだ。
異なる世界。
……やめた。わかったところでどうしようもない。
それに、定時出社の為だ。なんとかして魔王を倒さなくては。
うん。改めて、意味わからないな。
特になんの目的もなくフラフラと街を歩き、中央の噴水まで辿り着いた。噴水の手前には茶色い木の看板が立っていて、異様な存在感を放っていた。
ひし形のキラキラが空中で点滅している。
俺は看板の貼り紙に目を通す。
『世界を救う覚悟がお主はあるか? 来たれ強者共! 魔王を討ち滅ぼし、我らに平和と安息を与えたまえ!』
……つまり、どういうことなんだ。
紙の端に小さく何か書いてある。
『お気軽にお城までお尋ねください』
なんなら矢印のステッカーまで貼ってあった。『この先まっすぐ30mでお城!』だと。電柱に貼ってあるやつみたいだな。
ファンタジーっぽさとリアルが仲良く張り紙の中に混在していて、なんとも言えない気持ちになる。
「魔王討伐隊の募集ってことでいいのか?」
「そうだと思います!」
「お気軽に尋ねして、いいのかよ」
「ハードル上げたところで人は来ません! 質より量です!」
「聞きようによっては酷いなそれ」
量って、数打ちゃ当たるの人間版ってことになる。
「どうします? 魔王討伐しちゃいますか?」
「だから、そんな気軽に」
「大丈夫ですよ! ほら最強のふにゃ剣もあるじゃないですか!」
背負っていた剣が不満そうに震えた。
ふにゃ剣って、最強を冠する剣にしては締まらない名前だもんな。
俺は剣に同情しつつも、考えた。ふにゃ剣は最強……のはず。
「まぁ、定時出社のために頑張るか」
「そうと決まればお城までゴー!ですよ!」
彼女は拳を空高く突き上げる。俺もつられておー! と拳を突き上げてみた。
意味はわからないけど、ほんの少しだけ楽しかった。
……こんな風に無邪気な行動とったのって、いつ以来だろうか。