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名前をつけるといいぞという話

「楽器に名前をつけてあげなさい。名前がつくと愛着がついて大切にするから」

 たぶん、こんな感じだ。先生が言っていた。
 それを聞いたのは何十年前も前の話だ。

 僕は手元にあるスマホに目を落とす。

 山田先生だったか、内山先生だったか。言った先生すら、その先生がどんなトーンでいったのかすら、いや部員だったか? まぁとにかく覚えていない。
 ただ妙に残っていた。

 だから、スマホを買い替えるときに適当に名前をつけていた。
 りんごとか、シロとか。
 すぐに忘れるし、呼ぶこともしなかった。

 だからか、愛着も湧かなかった。
 ただ、なくなると不安になる。
 
 今日も、洗濯物を干しているときに突然いなくなり不安になった。
 結局、机の上にいたけれど。

 画面に表示される時間が1分進んだ。
 せっかくの休日がどんどん吸い取られていく。
 パスコードを入れて、何をしたいわけでもないのにSNSを開いた。

 スクリーンタイムを見ると、5時間とか超えていた。
 どれだけこいつが好きなんだ。
 画面をスクロールする際に、微かに指に引っかかる。
 亀裂が入ってしまっているから。画面ではなく正確にはフィルムに、だが。
 見栄えは悪いが、買い替えるほどでもない。
 だから、そのままにしている。

 電源ボタンで画面を落とすと、一切感情のない自分の顔が映り込む。
 ため息をついて、伸びをして、ベッドに身体を投げ出した。

 スマホにつけた名前は、覚えていない。

※※※

 タイトル:こいつの名前はクロでいいか