はしって はしって はしってる
焦っていた。だから走っていた。
喉から血が出そうなほど。肺がグズグズになるほど。足の裏が無くなるほど。
ずっと、なにかが僕を追う。
足を止めてはいけない。
それだけが頭にあった。だから、何度転ぼうが立ち上がった。
膝はきっと血塗れだ。土とか砂とかで大変だ。手のひらの付け根も擦れている。
でも、走るしか無かった。
走れているかも分からない。
でも、走るしか、走ってると思うしか、足が動いていると思い込むしかなかった。
それは既に僕に追いついている。
転けて。うつ伏せになった僕の足を踏みつけ、腰を踏みつけ、背を踏みつける。
骨が砕ける音が近づいてくる。
痛みに必死に叫び、汚いだけの音が響く。
暴れたくても、何かが僕を押さえつけるから。ただ、ただ、痛みを理解するしかなかった。
息を止めても苦しくて、吸い込んでも痛い。
耳に吹かかる生暖かい吐息に、薄気味悪さを覚えた。
「おはようございます」
目が覚めた。
目が、覚めてしまった。
眠気が重たく伸し掛るのに、時計は6時を指ししめす。
煩いくらいの雨音に、肌を刺すような冷たい空気。
ぐっしょりと汗ばんだ身体が気持ち悪い。
ぐちゃぐちゃに足元による布団に、抜けた髪が一本、不安定な曲線を描いていた。
重たすぎる身体を起こし、欠伸を呑み込む。
床についた足が、身体を支えられたことに苛立ちを覚えた。