今日の夢
目は覚めたが、部屋はまだ暗かった。身体を起こそうとすると、鉛のように重たい。
二足歩行の人間とは思えないような体勢で、ドアにたどり着く。ドアノブに手をかけドアを開くと、視界が暗転した。
また、部屋の天井があった。さっきのは夢だったのだろう。だが、身体の重たさは夢の時のままだった。
身体を起こすと、部屋の壁に違和感を覚えた。何も無いはずの壁に、人のシルエットをした紙が貼られている。
歴史の授業で習った誰かのものだ。私は咄嗟に床に視線を落とす。何故か、見てはいけないと思ったからだ。
ドアに手をかけ、開いた先は暗闇が続いていた。
——家光の末路を思い出せ
その声と共に再び目が覚める。またベッドの上から始まり、人のシルエットも健在だ。
家光って17代将軍だよな。末路って……知らないけど。身体はまだ重く、足を床に着いた途端、視界が一変した。
暗い背景に、なにか巻物を読む男性の映像が見えた。
あれは家光だろうか。自然と先ほど出てきた人物と紐づけていた。
巻物の中身は現代の日本語だった。内容までは分からない。
「プログラマか、よくやっている。だが、そろそろ潮時か」
その声は、末路を思い出せ。そう言った男性の声と同じだった。
またベッドの上だ。いつになったら起きれるのだろうか。
今度は自室の外まで出ることが出来た。差し込む光はほとんどなく、身体の重さにゆっくりと地面に沈む。
その様子をドアから弟が見下ろしていた。その向かいの、両親の寝室も開いている。
「助けて」
思わず出た声は乾涸び過ぎていた。全てのドアが音もなく閉じられ、またベッドの上に戻された。
ようやく一階のリビングに降りることが出来た。もう何度ベッドからやり直しただろうか。安堵と共に視界に飛び込んできたのは女性プロレスラーだった。ピンク色の衣装に、一纏めにされている金髪。真一文字に結ばれた口。仁王立ちしている侵入者を私は咄嗟に腕で首を締め上げる。
相手は抵抗することもせず、ただその場にたっているだけだった。階段から家族が降りてくる。
私は何かを叫ぼうとした。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。ゆっくりと起き上がると、身体は重たくはなかった。そして、とても眠たい。
スマホには午前4:27と表示されている。本当に起きられた、んだよな。
壁を確認すると将軍のシルエットはそこにはなかった。
妙な夢を見たと、もう一度瞼を閉じる。
家光って17代将軍じゃなかった気がする。
家光が自分のことを家光っていうのは、何となく変だ。
それに、あのシルエットはたぶん、織田信長だ。
じゃあ、あの声は信長だろうか。
ますます意味がわからない。夢だけど。
ぼんやりと考えているうちに、自然と眠りに落ち 私は心療内科に行くにあたって、メモ書きを用意していた。幅の大きすぎる罫線が5本ほど。
まだ一行しか埋まっていない。
それを見た母が私に言った。
「日本語だから通じないのよ。英語で書きなさい」
母は私に辞書を手渡す。先生は日本人だし、私も英語が得意な訳では無い。
私はカッとなって辞書を床にたたきつけた。その音は驚く程に大きな音だった。
「使えもしない英語で書いても伝わるわけが無い!」
勢いのままに叫ぶと母はいった。
「私が辛いの、そんなあなたとずーっと一緒にいるんだから」
私は何も言えなかった。だって、事実だから。
私は今保健室にいる。保健室の先生は眼鏡をかけていた。ボブカットで黒髪の優しそうな女性だった。
採血の為にと針を刺され、すぐに抜かれる。注射器の中には血が半分程しか入っていなかった。
すぐに終わったし、痛みもほとんど無かった。
きっと採血が上手な方なのだろう。
「今度は血管に沿って刺しますね」
最初からそうしてくれれば良かったのに。もう一度針を刺されたが、やっぱり痛みはなかった。
体調チェックシートを手渡され、チェックをつけていく。最後のふたつの設問で手が止まった。
「辛いので」
そう言って『はい』にチェックをつけようとすると、先生は言った。
「こういうのはね、とりあえず大丈夫って答えておくの」
目が覚め、朝の支度を済ませた。
身体の中のものが数センチ下がっているような感覚がある。
瞬きをする間にデジタル時計が一分経過していた。